UHF RFIDアンテナ
UHF帯のRFIDシステムの設計では、RFIDアンテナの選定が非常に大きなウエィトを占めています。運用の目的に適したアンテナを選定することが、効率の高いシステムを構築するためのキーになることは少なくありません。リーダライタのメーカーのウェブサイトには、せいぜい2・3機種のアンテナしか掲載されていませんが、これらは物流管理の用途に開発されたアンテナがほとんどです。実際にはわずか2・3機種のアンテナで、あらゆるRFIDの用途に対応させることは不可能です。米国でRFIDが普及したのは、リーダライタのメーカーとアンテナメーカーとの協力により、さまざまな運用に適した多様なアンテナ製品が開発されたことが背景にあります。
RFIDアンテナには電界型と磁界型のアンテナがあり、一般にタグとの距離が離れている運用には電界型、距離が近い運用には磁界型のアンテナが適しています。電界型のアンテナには円偏波方式と直線偏波方式があります。円偏波方式のアンテナからは電波がラグビーボールのような紡錘形に放射し、直線偏波方式のアンテナからは電波が水平あるいは垂直の波状に放射します。直線偏波アンテナのほうが長い交信距離を持ちますが、電波の広がり方には偏りがあり、広い範囲にある複数のタグの読み取りには円偏波アンテナが適しています。円偏波アンテナからは電波がスパイラル状に放射し、右巻きで放射するのを右旋回、左巻きで放射するのを左旋回と呼びます。
UHF帯のRFIDシステムでは、電界型の円偏波アンテナがもっとも多く採用されており、運用されているアンテナの90%以上はこの方式です。実際の運用ではタグの情報を漏れなく読み取ることを求められますが、周辺にある、読んではいけないタグを読んでしまうリスもあり、そのリスクを回避するためにアンテナの配置を工夫したり、リーダの出力を最適化することが必要になったり、特殊な処理によるフィルタリングを行うこともあります。
タグと近距離での交信を行う運用には、磁界型のアンテナが多く利用されます。ゲインなどアンテナの特性にもよりますが、交信できる距離は5ないし20センチ程度であり、周辺にある、読んではいけないタグを読み取るリスクを極めて低く抑えることができます。アンテナから放射される磁界のエネルギーは、距離が離れると急速に減衰するためです。実際に電波認証が取得されている磁界型のアンテナの機種は非常に少なく、代表的なものはTimes-7社製 A1001および A1030、Impinj社製 BrickyardおよびMini-Guardrail、帝人製セルフォームなどの機種に限定されます。
UHF帯 RFIDの応用は米国では2010年以降に急速な進展を遂げており、わが国に比較するとすでに20倍以上の市場規模に拡大しています。ウォルマートのような大手小売業者がサプライチェーンにRFIDを採用したことや、国防総省が陸軍、海軍、空軍、海兵隊の四軍で軍需物資のロジスティクスにRFIDによる管理を導入したことが、RFIDが普及する引き金になっています。QRコードを除くと、ほとんどの自動認識技術は米国で開発されています。過去、自動認識技術は米国内での普及から数年遅れてわが国でも普及する傾向があり、RFIDに関しては今後1・2年の間にわが国でも急速に普及することが期待されています。
CSL製等 UHFアンテナ
UHF帯のRFIDアンテナには、大きく分けて『電界方式』と『電磁界方式』の2種類があります。ほとんどは『電界方式』の製品であり、UHFの特長である遠くにあるタグの読み取りに適した設計がされています。ゲートを通過する複数のタグの一括読み取りの用途などにはこの方式のアンテナが利用され、UHF帯RFIDの多くの事例で採用されています。
それに対して電磁界方式のアンテナは、電波の広がりを制御してアンテナの近傍だけで通信を行う技術です。このような近接アンテナとしては、Impinj社が開発して香港のCSL社がブリックヤードのブランドで製造をしている製品があります。これをPOSの清算レジカウンターに設置すると、カウンターの上にあるタグだけを読み取るように最適化をすることが可能です。
また東京大学のベンチャー企業であるセルクロス社が開発したシートアンテナで、帝人ファイバーがセルフォームのブランドで製造をしている製品も広く知られています。セルフォームは厚さがわずか3ミリメートルのアンテナ素材であり、棚の上に置いたシートアンテナと、その棚の上に置かれた書籍や書類などに付けられたRFタグだけでの通信を行い、リアルタイムでの所在管理を行うのに適しています。
このようなRFIDの管理手法はスマートシェルフと呼ばれて、書籍や書類だけではなく医薬品や商品棚での物品管理などへ、将来 の応用の拡大が期待されています。